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ゲンロン戦記は、東浩紀氏vs会社経理の歴史本

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ゲンロン戦記という本があります。

哲学者の東浩紀氏が、株式会社ゲンロンを2010年に創業してから起きた出来事を振り返るという内容です。

先日、以下の記事では「過去を語るより、黙々と仕事をするほうが大事」といった趣旨の内容を書いたのですが、逆に経営について失敗も含めて赤裸々に書くとしたら、このような内容になるという参考事例としても読めました。

東氏の場合は、雑務などを人任せにした結果、トラブルが発生し、対処に追われるというエピソードが繰り返し登場します。

新しい出版社をつくると息巻いても、じっさいは面倒なことを大学の事務員や出版社の編集者に押しつけ、見ないふりをしているいままでの知識人たちとたいして変わらなかったわけです。

東浩紀. ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (Japanese Edition) (pp.33-34). Kindle 版.

そして、その思考は「甘え」であり、それこそが危機の原因だったと振り返っています。

自分で起業したくせに、経営なんてほんとうはやりたくない、押しつけられたという甘えが残っている。その甘えが、震災後のゲンロンをいくども危機に追い込むことになります。

東浩紀. ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (Japanese Edition) (p.34). Kindle 版.

そして、使ってない装置などの契約を見直すなどして、経費節減に取り組んでもいます。それは、何のために起業したのかがわからなくなるような虚しい体験だったということです。

ぼくは当時、メディアでは、福島の観光地化計画だ、言論誌の新しいかたちだとかいって偉そうに話をしていました。けれども、会社に戻れば、契約書の処理や業者との連絡に追われていて、なにひとつクリエイティブだったり学問的だったりすることは考えられなかった。「あれどうなったの?」「あの契約は解除できた?」みたいなやりとりばかりで、おれ、なんのために会社つくったんだろうと虚しくなっていました。

東浩紀. ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (Japanese Edition) (pp.49-50). Kindle 版.

また、溜まった領収書をひたすら打ち込む話も登場します。

嘆いてもしかたがないので、3人で手分けして領収書を打ち込むところから始めました。6月分担当ということになったら、「2014年6月6日/550円/文具……」とエクセルにちまちま打ち込んでいくわけです。同時に、それまで無秩序にあちこちのキャビネットに突っ込まれていたファイルを引っ張り出し、デジタルデータでしかなかった契約書や請求書はできるだけ印刷して、紙のフォルダをあらためてつくるという作業を行いました。

東浩紀. ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (Japanese Edition) (pp.58-59). Kindle 版.

弊社も物理的なオフィスを持たないため、電子データが積み重なっているのですが、紙に印刷すると、分厚いファイルが次々できていくのです。

ゲンロンも、さきほど述べたように、創業してしばらくはどこにも物理的なオフィスはなく、みなメールベースで仕事をしていました。2011年以降もその精神は生きていて、紙の書類の管理はかなりずさんなものでした。みんな、あとでGメールやドロップボックス(クラウドのファイル共有サービス)を検索すればいいだろうと思っていたわけです。けれども、この事件で、それには大きなリスクがあることを痛感しました。ファイルはたしかにデジタルでクラウドにおいてもいい。けれども、それだけでは社員は仕事の存在を忘れてしまうのです。契約書や経理書類を紙に印刷し、目に見えるものとして棚に並べるのは、仕事があることを思い出させ続けるためだと思います。

東浩紀. ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (Japanese Edition) (p.59). Kindle 版.

なんでもデジタルで済ませられる時代でも、あえて紙を扱うことで、タスクなどが手にとって触れられる実感が生まれます。

例えば、google calenderなどだけでなく、あえて紙の手帳も使うと、to doリストを片付けていくとき爽快感が楽しめます。

紙の効用について補足しておきます。会社の実態は結局のところお金です。お金は記号で数字です。けれど、経営をするためには、その数字の流れをあるていど身体的に摑んでいないといけません。いついくら入金があり、出金があるかという情報を、いちいちエクセルを検索して報告しているようでは経営はできない。

東浩紀. ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (Japanese Edition) (p.60). Kindle 版.

こうした作業を東氏は「経営の身体」と表現しています。撮影機材など、頭で考えるのでなく、実際に動かすことで、撮影の段取りが明確になるといったことも多いです。

ぼくが当時、領収書を打ち込みフォルダをつくりながら考えていたのは、そのような「経営の身体」はデジタルの情報だけでは立ち上がりにくいということでした。紙の書類を印刷しフォルダにして書棚に入れると、情報がオフィスのなかで特定の場所を占めるので、全体が身体的に把握しやすい。それはお金の流れだけの話でなくて、そのときはじめてぼくは、ゲンロンの全体をしっかり摑むことができるようになったのだと思います。ゲンロンカフェだったら、このケーブルはどこにどうつながっていて、どんな意味があるケーブルか、配線レベルまでいちど完全に把握しました。業者の請求書も細かいものまですべて確認しました。面倒なことを人任せにせず、ゲンロンについてなら、なにを質問されても答えられる状態になりました。会社を経営するためには、いちどその段階を経ないとダメです。

東浩紀. ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (Japanese Edition) (pp.60-61). Kindle 版.

弊社でも、年度末に一気に会社経理を整理することがあり、写真のようなファイルが積まれていって、「やっぱしコツコツと片付けていかないと後で困るな」と思うわけでして、「経営の身体」を日頃からつくっていく必要があるなと実感しました。


ゲンロン戦記 「知の観客」をつくる (中公新書ラクレ)

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