社会物理学とは?本「ソーシャル物理学」で解説

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この記事は、社会物理学という分野について、「ソーシャル物理学」という本を参考にして解説します。

社会物理学の定義

書籍「ソーシャル物理学」では、重要な概念として「社会物理学」「アイデア」「アイデアの流れ」などを定義しています。

社会物理学とは、情報やアイデアの流れと人々の行動の間にある、確かな数理的関係性を記述する定量的な社会科学である。

アレックス・ペントランド、ソーシャル物理学、p.16、草思社(2015)

アイデアとは、望ましい状態を生み出すための戦略(行動およびそれが生み出すもの、そしていつ行動を取るかを判断する仕組み)を意味する。互いに矛盾しない、価値ある一連のアイデアは、「行動習慣」となり、「速い思考」を実現するために使われる。

アレックス・ペントランド、ソーシャル物理学、p.34、草思社(2015)

アイデアの流れとは、社会的学習や社会的手段により、ソーシャルネットワークを通じて行為や考え方が伝播していくこと。アイデアの流れを左右するのは、ソーシャルネットワークの構造、アイデアを伝える人物の社会的影響力の強さ、そしてアイデアを伝えられる側の人物の新しいアイデアに対する感受性の強さといった要因である。

アレックス・ペントランド、ソーシャル物理学、p.34、草思社(2015)

以上の定義から、社会物理学とは、行動経済学者のダニエル・カーネマンが提唱した「速い思考」を実現する情報やアイデアがソーシャルネットワークなどを通じてどのように人々の間を伝播するかなどを定量的に分析する社会科学の一分野である、とまとめられます。

優れたアイデアを生み出す方法

次に、優れたアイデアを生み出す方法として、スティーブ・ジョブズが創造力について語った言葉を引用しています。

創造力とは、物事を結びつける力にすぎません。クリエイティブな人々に「どうやってそれを思いついたの?」と尋ねても、彼らはばつの悪い思いをするだけでしょう。彼らは思いついたのではなく、目にしたにすぎないからです。しばらく眺めているうちに、彼らの目にははっきりと形が浮かんできます。クリエイティブな人々は、自らの経験をつなぎ合わせ、新しいものを合成するのです。

アレックス・ペントランド、ソーシャル物理学、p.40、草思社(2015)

創造力が「物事を結びつける力」であるならば、優れたアイデアを生み出す上で、多様性が重要になると推測されます。

著者のアレックス・ペントランド(Alex Pentland)は中国のスタートアップ企業における成功の要因として、メンバーの経験やスキルの多様性が重要であることに言及しています[以下のインタビュー動画での16:41~の箇所]。

また、ソーシャルネットワーク上で優れたアイデアを実現する方法として、「孤立しすぎず、一方、特定の思想クラスターに近づきすぎないこと」とされています。その実験例として、オンライン用SNSトレード会社イートロ(etoro)上での取引で、投資利益を最善にする行動を分析した研究を挙げています。

どのようなパターンで社会的学習が行われれば、最善の結果を手にすることができるだろうか?その答えは、ヤニフがあるグラフを作成したことによって得られた。彼は縦軸に投資利益率を、横軸をトレーダ間でアイデアの流れの速さを置き、すべてのトレーダーの投資利益率をプロットしたのである。(中略)イートロ(etoro)の取引環境では、「群衆の英知」は完全な孤立状態と、ソーシャルメディアがエコーチェンバーとなって生まれる集団行動という両極端の間に発生するようだ。

アレックス・ペントランド、ソーシャル物理学、pp.47-48、草思社(2015)

優れた研究者の特徴

優れたアイデアを生み出す方法に続いて、卓越した成果を出す研究者の特徴について調査されたベル研究所のスター研究者に関する報告にも触れています。

1985年、カーネギーメロン大学のボブ・ケリーが、現在では有名になった「ベル・スター研究」を実施した。トップクラスの研究機関として知られるベル研究所で、「花形研究者(スター)と平均レベルの研究者では何が違うのか」をより深く検証しようとしたのである。

(中略)

研究の結果、ケリーはスターたちが「準備的探求」と呼ばれる活動を行っていることを発見した。どういうことかと言うと、彼らは事前に専門家たちと双方向的の関係を築いており、自身の研究において重要なタスクを実行する際に、その関係に頼っていたのである。

また、スターが築いているネットワークには、平均的な人物が持つネットワークとは2つの点で大きく異なっている。

第一に、スターはネットワーク内かの人物とより強い関係を結んでおり、彼らから迅速かつ有益な反応を得ることができるのだ。その結果、彼らは無駄に時間を費やしたり、袋小路に迷い込んだりすることが少ない。

第二に、スターのネットワークにはより多様な人々が含まれている。平均的な人物は、世界を自分の仕事の観点からしか見ようとせず、ずっと同じ観点で考えてしまう。一方スターはと言うと、広範囲な立場の人々を自身のネットワークに含めており、自分以外にも顧客やライバル、マネージャーの視点から物事を考えることができる。その結果、問題に対してより優れた解決策を編みだすことができるのだ。

(中略)

スターはまさにこの社会的投票行動を研究グループがとるように促していた。平均的研究者が「チーム内で自分の役割を果たすこと」をチームワークだと考える一方で、スターはチーム内の全員が、目標設定・グループへの貢献・作業内容・スケジュール・グループとしての成果について当事者意識を持つように働きかけていたのである。

言い換えると、スターはチームメンバー全員がチームの一部であるという意識をもたせることで、均一で調和したアイデアの流れをチーム内に生み出し、誰もが新しいアイデアに前向きに取り組めるように、十分なコンセンサスを作り出そうとしていた。

レックス・ペントランド、ソーシャル物理学、pp.50-51,82、草思社(2015)

専門家間の狭く強い結びつきと、多様な人々との広く弱い結びつきが卓越さにつながる説は興味深いことです。

また、準備敵探求と呼ばれる学習行為について、最適な学習戦略としてのエネルギー配分も指摘されています。

複雑な環境における学習を数学モデルにして確認したところ、最善の学習戦略は、エネルギーの90%を探求行為(うまく行動していると思われる人を見つけてそれを真似する)に割くことだった。そして残りの10%を、個人による実験と考察に費やすのが良いという結果になった。

レックス・ペントランド、ソーシャル物理学、p.71、草思社(2015)

最初から自分で試行錯誤するのではなく、まずは成功事例などを探求行為として大きなリソースを割くことで、後から自分で無駄のない学習が可能になるという点も参考になりそうです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。

社会物理学は、情報やアイデアの流れに着目して、人間の社会的行動に対する洞察を与えてくれます。

書籍「ソーシャル物理学」では、社会実験の紹介や、数学的な理論背景、日立製作所研究開発グループの矢野和男さんによる解説など、充実した内容になっているので、興味を持たれた方はご一読をおすすめします。

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